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東京地方裁判所 昭和37年(行)5号 判決

原告 鄭根釆

被告 東京都知事

主文

原告の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

(当事者の申立て)

第一、請求の趣旨

一、第一次的に、被告が原告に対し、昭和三六年二月一日付をもつて、別紙物件目録記載(一)ないし(四)の土地についてした仮換地指定処分は無効であることを確認する。

二、第二次的に、右仮換地指定処分を取り消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

第二、被告の申立て

主文と同旨

(当事者の主張)

第一、原告の請求原因及び被告の主張に対する反論

一、原告は別紙第一物件目録記載(一)ないし(四)の土地(以下本件土地という。)を所有し、該地上に同目録記載(五)ないし(七)の建物を建築し、所有しているものであるが、戦災復興院総裁は、昭和二一年四月二五日同院告示第一三号をもつて、本件土地を含む六一、〇〇〇、〇〇〇坪の土地に対し、東京特別都市計画復興土地区画整理を行う区域の決定をなし、同年九月一〇日内閣総理大臣は、右区画整理の一部を都市計画事業として被告が施行するよう命令し、右命令に基づき、同院総裁は同年九月一六日、同院告示第一四七号をもつて、被告が右土地区画整理事業を行う旨告示した上、その対象となる区域約一、七二〇、〇〇〇坪を第一地区から第一一地区に区分し、その施行年度を定めたが、本件土地は右第八地区に属するものである。

そこで被告は同年一〇月一日、特別都市計画法施行令第一〇条の規定により、整理施行地区の告示を行つて右事業に着手し昭和二三年九月二七日その設計について建設大臣の認可を得た。そして昭和三〇年四月一〇日土地区画整理法の施行後は、同法第三条第四項の規定により右事業を行つて来た(なお、同年一一月七日建設大臣は、東京特別都市計画事業を東京都市計画事業に改称する旨告示した。)のであるが、被告は昭和三六年二月一日付をもつて、原告所有の本件土地に対する仮換地を別紙第二物件目録記載のごとく指定し、その効力の発生の時期を同年二月一五日とする旨の決定(以下本件仮換地指定処分という。)をし、同月三日仮換地指定通知書(36三区発第八八号二〇五〇号)をもつて、その旨原告に通知した。そこで原告はこれを不服として同月一六日建設大臣に対し訴願を提起したところ、同大臣は同年一〇月三〇日右訴願を棄却する旨の裁決をなし、その旨原告に通知した。

二、しかしながら、本件仮換地指定処分は次の理由により無効である。

土地区画整理法第九八条第一項によると、仮換地を行うことができる場合として、(一)公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合(以下、前段の仮換地指定処分という。)と(二)換地計画に基づき換地処分を行う必要がある場合(以下、後段の仮換地指定処分という。)の二つの場合を規定しており、前段の仮換地指定処分は、その性質上、換地計画が存することを要件としていないが、後段の仮換地指定処分は、換地計画に基づくことをその要件としているものと解すべきところ、本件仮換地指定処分は、実質的には換地処分を行う必要から後段の仮換地指定処分としてなされているにもかかわらず、換地計画に基づかずになされたものであつて、この点において重大かつ明白なかしがあり無効というべきである。

被告は本件仮換地指定処分は、公共施設である道路が本件土地の一部に新設され、また附近の道路の拡張を行うためになされたものであるから、前段の仮換地指定処分であると主張する。そして都市計画として被告主張のような都市計画放射第四号線道路及び渋谷駅前広場の決定及び変更があり、右計画決定によると、放射第四号線道路は本件土地附近において幅員三〇メートルのところ、さらに南側に八メートル拡張されることになつていること、右第八地区に存する放射第四号線道路及び駅前広場の整備は、区画整理施行命令及び執行年度割の決定により、被告がこれを行うことになつていることは、原告もこれを争わないが、土地区画整理は、土地の宅地としての利用を増進することを目的として土地の区画形質の変更及び公共施設の新設又は変更等を行ない、かつそれに伴う交換分合を行なうことをいうのであるから、土地の区画整理には論理的必然的に道路その他の公共施設の新設又は既存の道路の拡張等が随伴するものといわなければならない。しかも区画整理地区内の一街区の土地はすべて関連的に整理されており、いわば不可分の関係にある。すなわち仮換地指定処分は、被指定者に対し個々独立に行われるのではなく、その地区内の全体の土地を一団として新たにその区画を定めて各人に割当て使用収益せしめるのであるから、その処分は互に相関連し、たとえばその中のある一人に対する指定処分を取り消し、又は変更するならば、その結果は必然的に他の者に対する指定処分を変更せねばならなくなるような関係にあるのである。したがつて本件土地の一部を、新設又は拡張する道路が貫通するといつても、それによる影響は直ちに本件土地区画整理地区内全域、殊に本件についていえば一〇九の一街区に強く波及し、道路新設等による影響は本件土地のみが受けるのみではなく、その影響は目白押し的にブロツク全体に及ぶことになるのである。前述のように土地の区画整理には道路の変更、新設等を必然的に伴うものであり、かつ、それによる影響は単に道路部分に該当するに至つた土地のみが負担するわけではないから、被告主張のように区画整理の地区内に道路の新設、拡張等がある場合には、たゞそれだけで前段の仮換地指定処分ができるものとすると、土地区画整理の地区内の全部にわたつて前段の仮換地指定処分を行うことができることになり、前段と後段の仮換地指定処分を区別して定めた法の精神は全く没却される結果となるのである。

そもそも、後段の仮換地指定処分は、将来の換地処分により、従前の土地と換地との間の区画形質に変更を生ずることが換地計画において定められているときに、整理事業の円滑な進捗を図るとともに、関係権利者の権利関係の可及的速かな安定を図り、実質上換地処分がなされたと同様の効果を得せしめて土地区画整理事業に伴う権利行使の制限を最少限度にとどめるために行うものであるのに対し、前段の仮換地指定処分は、工事施行のために一時従前の土地の使用収益を停止させるかわりに、これと照応する他の土地を仮に使用収益せしめるものであつて、その目的は円滑な工事施行を図るということに尽き、これによつて指定された仮換地は、後に再び他に移行することが予定されているのである。その意味において、前段の仮換地指定処分による関係権利者の地位は、きわめて不安定で、かつ経済上の損失も予想されるところであり、その犠牲は被指定者に集中されるのであるから、これによつてその施行の円滑を期せられるべき工事は、そのような被指定者の犠牲を必要とする特段の事由があつて、しかも換地計画の樹立を待ち得ないほど早急にこれを完成すべき必要がある場合に限ると解するのを相当する。したがつて前段の仮換地指定処分は、きわめて例外的のものであり、法は、それが殆んど行なわれないことを予想しているといつても過言ではない。さらに進んで仮換地指定処分の本質について考えるに、後段の仮換地指定処分は、その換地の位置ならびに範囲が将来そのまま換地となる予定でなされるのであつて、いわば宣言的な確認処分であるのに対し、前段の仮換地指定処分は、その仮換地は将来被指定者の換地となることが予想されないので、施行者が被指定者にその使用収益権能を設定する設権処分であると解さざるを得ない。そして設権処分は、他人にある権能を設定付与するのであるから、これをなし得るためには、設権者自らが設定すべき権能を有していなければならないことは当然である。したがつて前段の仮換地指定処分をするためには、施行者は前段の仮換地指定処分により定められる仮換地につき使用収益権能を有していなければならないのであつて、施行者は、その使用収益権能を有している土地、すなわちその所有にかかる広場、空地を有している場合か又は他に仮換地の指定を受けた者の従前の土地で、何人に対しても仮換地がなされていない土地(例えば将来道路敷地となる予定の土地)がある場合でなければ前段の仮換地指定処分をなし得ないことになるが、前段の仮換地指定処分はあくまで例外的なものであるから、かく解したとしてもなんら不都合ではない。

以上のごとく、前段の仮換地指定処分と、後段の仮換地指定処分はその性質が異なるのであるから、その要件は厳格に区別されなければならず、実質的に後段の仮換地指定処分の性質を有する仮換地指定処分を、前段の仮換地指定処分としてすることは許されないものと解すべきところ、本件仮換地指定処分が後段の換地予定的な仮換地指定処分としてなされたものであることは、前述のごとくすでに第八地区の全域にわたり仮換地指定処分が行なわれている事実によつても明らかであり、右仮換地指定処分の際、換地計画が定められていなかつたことは、被告の自認するところであるから、本件仮換地指定処分はこの点において重大かつ明白なかしがあるものというべきである。仮に本件仮換地指定処分が、前段の仮換地指定処分としてなされたものとしても、被告の意図は、本件土地のみならず第八地区の全域にわたつて換地計画がなく、仮換地指定処分をなし、それによつて指定された仮換地を一時的なものとせず、将来そのまま換地計画に取り込み換地処分によつて永久的なものにしようとしているのであるから、本件仮換地指定処分が土地区画整理法第八八条の趣旨を没却し、同条に基づく関係権利者の権利を実質上奪い、あるいはこれを制限するものであることは明らかである。同法が第八六条以下において換地計画樹立の基準を設けるとともに、その手続についても厳格な規定を設け、特に同法第八八条において利害関係人に対して意見を述べる機会を与えてその利益を保護しようとしている趣旨は、その手続の過程においても行政処分の正当性を保障しようとする民主主義国家における行政の基本理念のあらわれにほかならないのであるから、同法第八八条の規定の趣旨は、行政庁において最も尊重しなければならない規定の一つであることはいうまでもない。なるほど換地計画に基づかずに前段の仮換地指定処分がなされた場合においても、換地処分をなす際には改めて換地計画を定めなければならないことは被告主張のとおりである。しかし本件のように施行地区である第八地区の全域にわたつて換地計画を樹立せずに仮換地指定処分を行ない、すでにほとんどの建物の移築が終了しているような場合においては、換地計画の樹立に際し、関係権利者が意見を述べたとしても、その意見は、右のような既成の状態がある以上、ペーパープランの時期よりもとおりにくくなることは明らかであつて、実質的には関係権利者が意見を述べる機会を奪い、あるいはこれを制限する結果となることは明らかである。したがつて本件仮換地指定処分はこの点において、重大かつ明白なかしがあり無効というべきである。

よつて、原告は第一次的に本件仮換地指定処分が無効であることの確認を求める。

三、仮に本件仮換地指定処分が無効であることの確認が得られないとしても、右仮換地指定処分は、左の理由により違法であるから、第二次的にその取消しを求める。

(一) 本件仮換地指定処分は、その手続面において、前記無効原因として述べたところと同様な理由により違法である。

(二) 原告所有の本件土地は、渋谷駅前の繁華街にあつて、筆数は四筆にわかれているが互に密着して一体をなし、その形状は別紙第一図のとおり奥行のやや長い矩形であるが、仮換地として指定された土地は別紙第三図のとおりその形状が菱形であつて、従前の土地の形状に照応しないばかりでなく、近隣の土地の仮換地に比し、著しく不利益である。

すなわち原告は別紙第一物件目録記載の本件(一)、(二)の土地を昭和三一年二月一四日に、(三)の土地を昭和二七年六月二六日に(四)の土地を昭和三三年五月一五日にそれぞれ取得し、該地上に、同目録記載(五)ないし(七)の家屋を所有して同所で喫茶店及び中華料理店を経営しているものであるが、土地区画整理の減歩によつて、一番影響を受けるのは、店舗面積が狭くなり収容人員が減少し、その結果収益が少なくなるということである。そして、右減歩の影響は、普通には店舗の敷地が不整形であればある程甚だしく、正方形に近ければ近い程少ないのであるが、土地の財産的価値からみても同様のことがいえる。

してみると、土地区画整理においては、減歩の不利益はやむを得ないとしても、この不利益は土地区画整理法第八九条が遵守され、換地を従前の土地に照応する整形に指定してもらえば、利用効率の低下の点である程度までは右不利益の軽減を図ることができるものといわなければならない。ところで、被告は本件仮換地指定処分に先だち、昭和三五年五月一〇日付をもつて原告に対し、仮換地指定処分(以下、旧仮換地指定処分という)をしたが、その仮換地の形状は、別紙第六図のとおりであつて、間口が中央附近でやや内部に屈折しており、減歩率もやや大であつたので、原告はこれを不服として建設大臣に訴願を提起したところ、被告は右訴願中に旧仮換地指定処分を撤回して、新たに本件指定処分をしたものであるが、その仮換地として指定された土地は、前述のように菱形であつて間口が直線となり、地積の減歩率がわずかに少なくなつた点を除けば、旧仮換地指定処分よりもさらに不利益である。そして近隣の土地の仮換地が、別紙第一図と第三図の比較においてわかるように、街区番号一〇九の一及び一〇九の二を通じて、ほとんど従前の土地の形状に照応していることから考えても原告に特に不利益なものということができるのである。

被告は右のような形状で原告の仮換地を指定した理由についていろいろ述べているが、それは要するに原告の近隣の土地所有者の利益を図るために、原告に対して従前の土地に著しく照応しない仮換地を指定するに至つた事情を明らかにしたにすぎないのであつて、到底承服しがたいものである。

したがつて、本件仮換地指定処分は原告に対して特に不利益な仮換地を指定した点において、違法というべきである。

第二、被告の答弁及び主張

一、請求原因一の事実は認める(たゞし原告所有の建物の内容を除く。)、同二のうち、本件仮換地指定処分がなされた当時、換地計画がなかつたことは認めるが、本件仮換地指定処分が換地処分を行なうため必要があるものとしてなされたとの点は否認する。同三のうち、本件土地が渋谷駅前の繁華街にあつて、四筆に分かれているが、互に密着して一体をなしていること、原告が該地上に建物を所有し、同所で喫茶店及び中華料理店を経営していること、本件土地の取得年月日が原告主張のとおりであること、被告が本件仮換地指定処分に先だち、昭和三五年五月一〇日付をもつて、原告に対し旧仮換地指定処分をしたところ、原告が建設大臣に対し訴願を提起したこと、本件仮換地の形状が別紙第三図記載のごとく菱形をなしていることは認めるが、原告所有の建物の内容は不知、本件土地の形状が正方形に近い矩形であること及び本件仮換地が近隣の土地の仮換地にくらべて著しく不利益であることは否認する。

二、本件仮換地指定処分には、原告主張のような違法はない。

(一) 本件仮換地指定処分は、土地区画整理法第九八条第一項前段の「公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合」としてなされたものであつて、原告主張のごとく、同項後段の「換地計画に基づき換地処分を行なうため必要がある場合」としてなされたものではない。

すなわち、渋谷駅前の放射第四号線道路(二級国道)は、戦災復興院総裁により、昭和二一年三月二六日同院告示第三号をもつて、東京特別都市計画街路として決定された。右計画決定によると、放射第四号線道路は、千代田区永田町一丁目から渋谷駅前の宮益坂及び道玄坂を経て世田谷区玉川町神奈川県境に至る延長七、〇六四メートル、幅員三〇メートルないし四〇メートルの街路であつて、右計画決定は、昭和二三年一二月二五日建設省告示第二六一号及び昭和二五年三月二日同省告示第一一二号により一部変更されたが、本件土地附近においては幅員三〇メートルのところ、さらに南側において約八メートル(別紙第二図の北側緑線と、第三図の北側青線との間に囲まれた部分)が拡張されることになつた。また、渋谷駅前の広場については、昭和二一年八月二〇日戦災復興院総裁により同院告示第一〇〇号をもつて東京特別都市計画広場の決定がなされ、渋谷駅附近に一五、三三〇平方メートルの広場が造成されることになつたのであるが、その後右計画は昭和二三年一二月二五日建設省告示第二六一号、昭和二八年一一月七日同省告示第一、四〇三号及び昭和三六年七月七日同省告示第一、三一八号により一部変更された(なお東京特別都市計画事業は、昭和三〇年一一月七日、建設大臣により東京都市計画事業と改称された。)。そして右第八地区内に存する放射第四号線及び駅前広場の整備は、土地区画整理施行命令及び施行年度割の決定により、被告が行なうことになり、その方法は土地買収又は収用の方法によらず、土地区画整理の方式によつてなされることになつたのであるが、被告は単に都市計画事業の施行者に過ぎないので、右都市計画街路、広場等の都市計画自体を変更する権限を有しないのである。(同法第六条第三項にもこの点に関する注意規定がある。)

したがつて、本件土地区画整理事業は、右放射第四号線及び駅前広場の計画が動かしがたいという前提の下に行なわれたものであつて、前述のように放射第四号線は本件土地附近において南側に八メートル拡張されることになつたので、その拡張される部分の宅地の所有者に仮換地を与える必要があり、さらに本件土地とその仮換地との間には、別紙第三図のごとく幅員四メートルの道路が新設され、本件土地の一部は道路敷地となるので、右道路の拡張、新設工事の必要から、本件土地の仮換地を同図のごとく、南西側に指定する必要が生じ、本件仮換地指定処分がなされたものである。

以上のように本件仮換地指定処分は、公共施設である道路を拡張、新設する工事のため必要がある場合として同法第九八条第一項前段に基づきなされたものであるから、原告主張のような違法はない。

原告は同項後段の仮換地指定処分は確認処分であるのに対し、前段の仮換地指定処分は設権処分であるとの前提に立つて前段の仮換地指定処分をなすためには、施行者が被指定地について私法上の使用収益権能を有していなければならず、したがつて前段の仮換地指定処分として、仮換地を指定しうる土地は施行者が所有する広場、空地等に限られると主張するが、原告の右主張は、その前提において誤りがある。すなわち土地区画整理においては、施行者は区画整理を施行する職務と権限を有するものであつて、その事業施行のため必要なものとして、法は施行者に対し仮換地の指定権その他の権利を与えているのである。これを本件についていうならば、同法第九八条第一項の前段又は後段の規定する要件が存するならば、施行者たる東京都知事は仮換地指定権を行使しうるに至り、同時に住民の土地(すなわち仮換地被指定地)について、仮換地被指定者に公法上の使用権を附与する権限を行使しうることになるが、これらの権利はいずれも土地区画整理事業を施行するために必要があるものとして法が施行者に与えた公法上の設権行為的の権利であつて、施行者が仮換地の被指定地に対してすでに有している私法上の土地使用権に基づくものではないのである。しかも、もし原告主張のごとく解するとするならば、施行者が施行地区内のいずれの土地についても使用権を有していないときは前段の仮換地指定処分をなし得ないという不都合を生ずることになる。特に本件のように施行者が国の機関である東京都知事である場合には、同知事は公共団体である東京都所有の土地については使用権を有しないし、又国有地についても、国有財産法の規定上、各所管者が定められていて、東京都知事にはその使用権が与えられていないのであるから、原告の主張にしたがうならば施行者である東京都知事が前段の仮換地指定処分をなしうる余地は、実際上あり得ないことになり、明らかに不合理というべきである。また前段の仮換地指定処分をする場合においても、施行者は土地区画整理法第九八条第二項により従前の土地に照応するような仮換地を指定しなければならないのであるが、原告主張のとおりだとするならば、仮に施行者が施行地区内に使用権を有する土地があるとしても、その土地が都合よく従前の土地に照応すればよし、そうでない限り前段の仮換地指定処分をなし得ないことになるが、そのようなことは絶無に等しいのであるから、前段の仮換地指定処分は実際上なし得ないこととなり、これらの点から考えても原告の主張が誤りであることは明らかというべきである。

さらに、原告は本件仮換地指定処分が、前段の仮換地指定処分であるとしても、被告の意図はこれをそのまま換地計画に取り込み換地処分によつて永久的なものにしようとするものであるから、本件仮換地指定処分は同法第八八条の趣旨を没却する違法があると主張するが、本件仮換地指定処分が、前段の仮換地指定処分としてそれ自体適法になされている以上、それを違法とする余地は全くないのである。なんとなれば、前段の仮換地指定処分は、その後に行なわれる換地計画や、それに基づく換地処分とは別個独立の行政処分であるから、仮にこれらの後行処分にかしがあるとしても、それによつて先行処分である本件仮換地指定処分が違法性を帯びるに至ることはあり得ないからである。したがつてこの点についての原告の主張も理由がないことは明らかである。

(二) 仮換地の内容について、

本件仮換地指定処分によつて、指定された仮換地が菱形であることは原告主張のとおりであるが、本件土地の形状は別紙第二図のごとく不整形をなしており、原告主張のごとく正方形に近い矩形ではないのであるから、右のような形状で仮換地の指定をなしたとしても従前の土地に照応しないとはいえない。

仮に、原告主張のごとく、本件土地の地形が公図と異り、正方形に近い矩形であるとしても、仮換地が菱形であるから直ちに同法第八九条に違反するものということはできない。けだし、公共施設の新設又は変更の結果従前より縮少されることになる街区内の土地に、多数の仮換地を配する場合には、従前の土地の地形と相似形をなす仮換地を指定することは技術的に困難であつて、このことは同条が換地と従前の土地の照応の基準として、位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等を掲げているけれども積極的に地形を例示していないことによつてもうかゞえるのである。

そして、本件仮換地指定処分における地積の減歩率は二五、三パーセント、間口の減歩率は五パーセントであるが、右は本件土地の属する街区の仮換地の平均減歩率である地積減歩率二六、六パーセント及び間口減歩率一七パーセントに比較すると低率であり、また本件仮換地の位置、環境等は本件土地に照応しているものである。

さらに、本件土地の仮換地を前記のような形状をもつて指定した理由について述べるならば、前述のように渋谷駅前の広場及び放射第四号線道路の整備は、都市計画として決定されているので、本件土地を含む第八地区の土地区画整理事業は右広場及び道路の改造を前提として行なわれているのである。したがつて、別紙第三図の仮換地のうち、北側の放射第四号線、東側の駅前広場に接する線は原則として動かすことができないのである。しかし、被告は第八地区の土地区画整理事業を施行するについて、都市計画決定以外の公共施設の設計をしたが、その際通常の方針にしたがい、本件土地の面する従前の道路を境にして東西に存する土地を一〇九の三街区及び一〇九の一街区(本件土地は同街区に含まれる。)とする仮換地の方針を立てた。そして当初一〇九の一及び一〇九の三の街区の間に幅員四メートルの道路(以下東側四メートル道路という。)を直線で設計した(別紙第四図緑色の部分)が、そうすると右街区の放射第四号線道路に面する間口の減歩率が一〇九の三街区にゆるく、その反面一〇九の一街区にきびしくなることがわかつたので、被告は、両街区の間口の減歩率の均衡を図るため、放射第四号線に対する東側計画道路の取付口を変更し、かつ二か所で屈折せしめる設計をたて(同図青線の部分、同第六図参照)、右設計に基づいて右街区内の土地所有者に対し、昭和三五年五月一〇日付で仮換地指定処分をした。

ところが、右仮換地指定処分に対し、渋谷区上通三丁目一三番の五、六、八、九の土地(本件土地の南側隣地)の所有者である楊永祐、同永境は、利用度の高い東側四メートル道路における間口減歩率が多く、間口内で道路の屈折があることについて被告に不服を述べ、原告も間口の屈折について不服を述べて訴願を提起したので、被告もその是正の必要があることを認め、まず間口内の屈折をさけるために右道路を原告及び楊らに対する仮換地の地境において屈折せしめること(別紙第四図の赤線部分及び同第五図参照)にした。一方楊らの土地の右道路に面する間口減歩率を是正するためには原告の仮換地の間口に食い込まなければならないのであるが、原告の間口の減歩率は三パーセントで街区そのものの間口減歩率一七パーセントに比して緩かであつたので、被告は原告の仮換地の間口減歩率を五パーセントに増加した、しかし、この場合において、原告の仮換地の奥行を東側四メートル道路に直角にとるとすると楊らの地積が増大する反面、一三番の一及び一四(原告の北側隣地)の土地の所有者である鄭南采の仮換地の地積が減少し、さらにその地形も悪くなるので、被告は同人及び原告の仮換地の地形を菱形にして、原告及び鄭、楊らの仮換地の地積減歩率の均衡を図り、かつそれぞれの地形を整えた上、原告に対する旧指定処分を取り消して本件仮換地指定処分をしたものであるから、本件仮換地が従前の土地に照応せず、近隣の土地の仮換地に比して著しく原告に不利であるとの原告の主張は失当である。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一、原告所有の本件土地を含む六一、〇〇〇、〇〇〇坪の土地について、

昭和二一年四月二五日戦災復興院総裁が同院告示第一三号をもつて東京特別都市計画復興土地区画整理を行う区域の決定をするとともに、同年九月一〇日内閣総理大臣が、右土地区画整理の一部を都市計画事業として被告が施行するよう命令し、該命令に基づき同院総裁は、同年九月一六日同院告示第一四七号をもつて、被告が右土地区画整理事業を行う旨を告示した上、その対象となる区域約一、七二〇、〇〇〇坪を第一地区から第一一地区に区分し、その施行年度を定めたが、本件土地は右第八地区に属するものであること、被告は、右区画整理命令及び執行年度割の決定に基づき、同年一〇月一日特別都市計画法施行令第一〇条の規定により、右土地区画整理地区の告示をして、土地区画整理事業に着手し、昭和二三年九月二七日その設計について建設大臣の認可を得、昭和三〇年四月一〇日土地区画整理法の施行後は、同法第三条第四項の規定により右事業を進めて来たこと(なお東京特別都市計画事業は、同年一一月七日建設大臣の告示により東京都市計画事業に改称された。)、被告が昭和三六年二月一日原告に対し本件仮換地指定処分をしたことは当事者間に争いがない。

二、本件仮換地指定処分の無効確認を求める請求について、

本件仮換地指定処分がなされた当時、換地計画が定められていなかつたことは当事者間に争いがない。原告は、本件仮換地指定処分は、実質的には同法第九八条第一項後段の仮換地指定処分としてなされたものであるにかかわらず、換地計画に基づかないでなされたから違法であると主張するのに対し、被告は、右処分は同項前段の仮換地指定処分としてなしたものであるから換地計画がなくても違法ではないと主張するので、この点について判断する。土地区画整理法第九八条第一項は、施行者が仮換地指定処分をすることができる場合として、(1)土地の区画形質の変更もしくは公共施設の新設、変更にかかる工事を施行するため必要がある場合(前段の仮換地指定処分)、(2)換地計画に基づき換地処分を行うために必要がある場合(後段の仮換地指定処分)、の二つの場合を規定しているが、前段の仮換地指定処分は、換地処分を行う前において、工事のために一時的に使用収益権を他に移す必要のある場合、すなわち一時利用地的な意味で指定する場合であり、後段の仮換地指定処分は、換地計画がすでに決定されてはいるが、換地処分を行うにはまだ準備不充分であつて、換地計画に定められた換地を一応仮換地として指定しておく必要のある場合、すなわち換地の予定地的な意味で指定する場合であることは、同条の規定の趣旨からして明らかなところである。そして前段の仮換地指定処分をなしうるための要件について他に格別の定めのあることは認められない。したがつて、後段の仮換地指定処分は、その性質上当然に換地計画が存することが予定されているが、前段の仮換地指定処分は必ずしもこれを前提とするものではないから、施行者は、土地区画整理の工事のため必要がある以上、換地計画があると否とを問わず、また換地計画を定めるにつき特に困難な事情があると否とにかかわらず、前段の仮換地指定処分をすることができるものというべきである。

そこで、本件仮換地指定処分が同項前段の仮換地指定処分としてなされたものであるかどうかについて考えてみるに、渋谷駅前の放射第四号線道路(二級国道)は、戦災復興院総裁により昭和二一年三月二六日同院告示第三号をもつて、東京特別都市計画街路として決定され、右計画決定によると、右道路は千代田区永田町一丁目から渋谷駅前の宮益坂及び道玄坂を経て世田谷区玉川町神奈川県境に至る廷長七、〇六四メートル、幅員三〇メートルないし四〇メートルの街路であつて、右計画決定は昭和二三年一二月二五日建設省告示第二六一号及び昭和二五年三月二日同省告示第一一二号により一部変更されたが、本件土地附近においては幅員三〇メートルのところ、さらに南側に約八メートル拡張されることになつたこと、また渋谷駅前の広場についても、昭和二一年八月二〇日戦災復興院告示第一〇〇号により東京特別都市計画広場の決定がなされ、同駅附近に一五、三三〇平方メートルの広場が造成されることになつた(その後右広場の計画決定は、昭和二三年一二月二五日建設省告示第二六一号、昭和二八年一一月七日同省告示第一、四〇三号及び昭和三六年七月七日同省告示第一、三一八号により一部変更され、また、東京特別都市計画事業は前述のように、昭和三〇年一一月七日建設大臣の告示により、東京都市計画事業と改称された。)が、第八地区内に存する右放射第四号線道路及び駅前広場の整備は、土地区画整理施行命令及び施行年度割の決定により、本件土地区画整理事業とともに被告が施行することになつていることは、いずれも当事者間に争いがなく、右事実に証人森多華司、小野実、井手輝次の各証言を綜合すると、次のような事実が認められる。すなわち、土地区画整理事業の施行地区内に道路広場等の公共施設に関する都市計画が決定されている場合には、土地区画整理事業はこれに適合するよう施行されなければならない(同法第六条第三項)ところ、本件土地区画整理事業の施行地区(第八地区)については、すでに、前記のごとく、放射第四号線道路及び駅前広場の拡張が都市計画として決定されており、被告がその施行者になつているので、被告は本件土地区画整理事業の施行に当つて、右道路及び駅前広場の拡張が動かしがたいという前提のもとに設計図を作成したが、右設計図によると、本件土地の北側の土地の一部が右放射第四号線道路の予定地に、また東側土地の一部が駅前広場の拡張予定地にかかつているばかりでなく、本件土地の東側に面している道路を西側に移動して幅四メートルの道路が新設され、その結果本件土地の一部が、別紙第三図で明らかなごとく右新設道路の敷地になる予定となつていた。そこで被告は右設計図に基づいて、放射第四号線道路及び駅前広場の拡張工事を施行することになり、そのためには右拡張予定地の使用収益権を他に移転する必要があつたが、附近に適当な土地がなかつたので、右土地の仮換地を指定するためには、その隣地の使用収益権を逐次他に移動して街区全体を移動せしめる必要があり、さらに本件土地の東側道路を西に移転し、新設するためには、直接右道路にかかる本件土地の使用収益権を停止し、これを他に移転する必要があつたので、土地区画整理法第九八条第一項前段に基づき本件仮換地指定処分をしたものである。以上のように認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

原告は、前段の仮換地指定処分は、単に公共施設である道路等の新設又は変更にかかる工事を施行する必要があれば直ちにこれをなしうるというわけではなく、それによつて円滑な施行が期待されるべき工事が、前段の仮換地指定処分による地位の不安という被指定者の犠牲を必要とする特別の事由があり、しかも換地計画をまつことができないほど早急にこれを完成すべき必要がある場合に限り、これをなしうるものと解すべきであるが、本件においては、このような特別の事情はなにもないから、本件仮換地指定処分は、同法第九八条第一項後段によりなされたものであると主張する。なるほど、後段の仮換地指定処分を定めた立法の趣旨が、換地処分のための混乱をさけ、かつ工事の進行を図るとともに、土地所有者その他の関係者に換地計画に定められた換地予定地をあらかじめ使用せしめて権利関係の安定を図ることを目的としているのに対し、前段の仮換地指定処分が円滑な工事の施行のみを目的としており、したがつてこれによつて指定された仮換地は、本来は換地の予定地たる性質を有するものではなく、後に換地計画に従つて他に移転することが(少くとも観念的に)予定されているところから、その意味において前段の仮換地指定処分を受けた関係権利者の地位が、後段の仮換地指定処分をうけた者に比しやや不安定であるということはいえるかもしれないが、だからといつて、このことが、前段の仮換地指定処分をなすための要件を原告主張のごとく解すべき根拠となるものではない。なんとなれば、前記のごとく、同項前段の規定自体から、かく解することは困難であるばかりでなく、換地計画がなく前段の仮換地指定処分がなされた場合においても、施行者は同法第九八条第二項により同法に定められた換地計画の決定の基準を考慮して仮換地を指定しなければならず、換地計画がある場合に準じて手続を運営することになつており、換地処分をするためには換地計画を定めなければならず(同法第一〇三条第一項)、換地計画に不満のある当事者は、同法第八八条第三項ないし第七項により施行者に意見書を提出し、その審査を経て換地計画を修正してもらうことが可能であるのであるから、この点において特に当事者に実質的な不利益を与えるものとはいえないからである。したがつて、これに反する見解を前提とする原告の右主張は採用し難い。

次に、原告は後段の仮換地指定処分は仮換地の位置ならびにその範囲が将来そのまま換地となる予定でなされるものであり、いわば宣言的な確認処分であるのに対し、前段の仮換地指定処分は将来被指定者の換地となることが予想されていないから、施行者が被指定者にその使用収益権能を設定する設権処分であるとして両者の性質を区別し、前段の仮換地指定処分は、施行者がその使用収益権能を有している土地がある場合でなければこれをなし得ないのであるから、本件仮換地指定処分は同法第九八条第一項後段によつてなされたものであると主張する。しかし、土地区画整理事業は、都市計画区域内の土地について公共施設の整備改善及び宅地の利用増進という公共目的のためになされるものであり、それ故に、同法は、施行者に対し施行地区内の土地について、区画整理事業の施行に必要な範囲内において、所有権の行使を制限し、一定の処分をなし得る権限を付与しているのであり、仮換地の指定処分は、右施行者の有する公法上の権限に基づいてなされるものであるから、同項の前段によつてなされるか又は後段によつてなされるかによつて、仮換地指定処分に原告主張のような性質上の差異があるわけではない。このことは、後段の仮換地指定処分の場合においても、仮換地として指定される土地が必ずしも、換地計画に換地として定められた土地の位置、面積等に一致するものではない(これは、同条第二項が単に「………換地計画に定められた事項又はこの法律に定める換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない。」と規定し、「換地計画に基づいて………」と規定していないことによつて明らかである。)ことによつても肯定できるのである。したがつて、この点に関する原告の主張は失当というべきである。

以上のごとく、本件仮換地指定処分は、同条第一項前段に基づきなされたものであり、かつその要件を具備しているものであるが原告は、仮にそうだとしても、被告の意図は、本件土地のみならず第八地区の全域について換地計画なくして仮換地指定処分をなし、それによつて指定された仮換地を一時的なものとせず、将来そのまま換地計画に取り込み換地処分によつて永久的なものにしようとしているから、本件仮換地指定処分は同法第八八条の趣旨を没却し、同条に基づく原告の権利を実質上奪いあるいは制限するものであると主張する。しかしながら、本件仮換地処分については、未だ換地計画がないのであるから、被告が果して原告主張のような意図をもつて本件仮換地指定処分をしたものかどうか明らかではない。のみならず、同法第九八条第二項は、同条第一項前段により仮換地指定処分がなされる場合と否とを区別せず、単に同項の規定により仮換地を指定する場合においては、「換地計画において定められた事項又はこの法律に定める換地計画の決定の基準を考慮してしなければならない」と規定しているが、これは前段の仮換地指定処分により指定された仮換地が、将来そのまま換地となる場合があることを法自体がすでに予想しているものともいえるのであつて、前述のように換地計画がなく前段の仮換地指定処分が行なわれた場合においても、換地計画がある場合に準じて手続を運営することになつており、この点において当事者に実質的な不利益を与えるものではないことを考えあわせると、被告が原告主張のような意図をもつて本件仮換地指定処分をしたとしても、そのような理由によつては、本件仮換地指定処分は、違法とはならないものというべきである。なるほど、区画整理の施行地区の全域にわたつて、すでに仮換地指定処分がなされ、建物の移築が行われているような場合には、換地計画が樹立された際に原告が換地予定地の位置、面積等について意見を述べたとしても、事実上その意見がとおりにくいということはあるかもしれないが、このような場合においても、換地計画の変更は必ずしも不可能というわけではなく、また当事者は、同法第八八条に基づき、換地計画に関して、換地設計についてばかりでなく、その他の事項たとえば清算金等についても意見を述べることができるのであるから、この点についての原告の主張は失当というべきである。

以上のとおりであつて、本件仮換地指定処分には原告主張のような違法はないから、その無効であることの確認を求める原告の第一次的請求は失当というべきである。

三、本件仮換地指定処分の取り消しを求める請求について、

(一)  原告は、本件仮換地指定処分は、実質的には土地区画整理法第九八条第一項後段によつてなされたものであるのにかかわらず、換地計画に基づかずになされたから違法であると主張するが、この点について本件仮換地指定処分が不適法であるといえないことはすでに述べたとおりであるから、原告の右主張は採用しがたい。

(二)  次に、原告は本件仮換地指定処分によつて指定された仮換地はその形状が菱形で、従前の土地に照応しないばかりでなく、近隣の土地の仮換地に比して著しく、不利益であると主張するので、この点について判断する。

土地区画整理法第九八条第二項は、仮換地を指定する場合においては、「換地計画の決定の基準を考慮してこれを定めなければならない」と規定しており、同法第八九条第一項によると、換地計画において換地を定める基準として「換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定められなければならない」と規定しているが、すべての条件が従前の土地に照応するように換地を定めることは技術的に困難であるから、右規定は、換地が同項所定の諸要素を総合的に勘案して、従前の土地と大体同一の条件をもつて、しかも公平に定められるべきことを規定したものと解すべきである。したがつて、換地又は仮換地につき従前の土地に多少照応しない点があつても、近隣の土地所有者に比し著しく不利益な処分をした場合でない限り、換地処分又は仮換地指定処分は違法とはならないものと解するのが相当である。

そこで、本件について考えてみるに、原告所有の本件土地は四筆に分かれているが互に密着して一体をなしており、原告は右土地上に建物を所有して喫茶店及び中華料理店を経営しているものであることは当事者間に争いがなく、右土地の形状は、公図によると別紙第二図のごとくやや不整形をなしているが、現況は別紙第一図のごとく、ほぼ正方形に近い矩形をなしていることは原告本人尋問の結果により認められる。そして、右土地の仮換地として指定された土地の形状が別紙第三図記載のごとくほぼ菱形をなしていることは当事者間に争いがなく、証人相沢珠壼の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一ないし三及び同証人の証言によると、本件仮換地は、その形状が正方形に近い矩形である場合に比し、利用価値において若干の低下があることが認められる。したがつて、本件土地の仮換地として指定された土地の形状が菱形であるという点においては、本件仮換地指定処分は原告に不利益なものということができよう。

しかしながら、成立に争いがない乙第一号証の一、二及び証人小野実の証言によると、本件土地の属する街区平均の地積の減歩率は二六、六パーセント、間口の減歩率は一七、八パーセントであるのに対し、本件仮換地の地積の減歩率は二五、五パーセント、間口の減歩率は五パーセントであつて、地積及び間口の減歩率の点において原告の仮換地は、街区内の他の土地の仮換地に比し有利であること、本件仮換地指定処分がなされる前、すなわち昭和三五年五月一〇日、被告は本件土地の属する一〇九の一街区内の土地について、別紙第六図のごとき形状をもつて仮換地を指定したところ、原告より間口に屈折があることを不服として建設大臣に訴願の提起があり、さらに本件土地の南側隣地(一三番の五、六、八、九)の所有者である楊永裕、同永境らも、間口の減歩率が大きい点について不服を述べたので、被告は検討の結果、同人らの仮換地の間口の減歩率及び原告の仮換地の間口の屈折を修正する必要があることを認め、右街区の東側の道路の位置を別紙第四図赤線のごとく移動させて設計書を作成し、旧仮換地指定処分を取り消した上、改めて本件仮換地処分をすることになつたが、右東側道路に面する土地の地積及び間口の減歩率の均衡を保つためには、別紙第五図記載のごとく、本件土地及びその北側隣地(一三番の一、同番の一四)の形状を、やや菱形にして仮換地を指定せざるを得なかつたことが認められ、これらの事実からみると、本件仮換地は、前述のようにその形状が菱形である点において多少の不利益はあるが、仮換地指定についての諸要素を総合的に勘案すれば、本件土地に照応しているものと認めるのが相当であり、同一街区内の他の土地の仮換地に比し、特に原告に不利益なものとはいいがたいから、本件仮換地指定処分には、原告主張のような違法はないものというべきである。

(三)  したがつて、本件仮換地指定処分の取り消しを求める原告の第二次的請求もまた失当というべきである。

四、よつて、原告の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 位野木益雄 田嶋重徳 桜林三郎)

(別紙第一、二物件目録省略)

第一図面〈省略〉

第二図面〈省略〉

第三図面〈省略〉

第四図面〈省略〉

第五図面〈省略〉

第六図面〈省略〉

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